Henry Millerを初めて読んだ。

『愛と笑いの夜』(1987, 福武文庫)
(Henry Miller, “Nights of Love and Laughter”, 1955)
ヘンリー・ミラー著, 吉行 淳之介訳
http://www.amazon.co.jp/dp/4828830545/

よかった。5編のうち4編は恋文か告白かという感じで、何ともせつない。彼の作 品では変わり種らしい。

構成としては、純な娼婦を描いた『マドモアゼル・クロード』が最初に置かれて いるおかげで、全体の雰囲気がいっそう決まっていると思う。『初恋』を最後に 加えたのもいい。うまい。

もうひとつ。『頭蓋骨が洗濯板のアル中の退役軍人』に残酷なことがさらっと書 かれているのが印象に残った。

男が発する言葉は魂の叫びだった。自分の魂は潰されてしまったと、彼は言っ ているがそれは真実ではない。魂は潰されないものだ。魂は傷つき、その結果、 全宇宙が広大な苦悩の場に見えるのである。しかし魂は、際限なく苦悩や苦痛 に耐えることができる。そうでなかったら、人類はとっくに滅びていたことだ ろう。心臓が血液を送り出すかぎり、生命はつづいてゆくのである。

とてもいい。

こういう本が味わえるようになるというのは、今後の楽しみの一つかもしれない。 3.5 .. 4.0.

(この本は、別宮貞徳『誤訳 迷訳 欠陥翻訳』であとがきが紹介されていたので 読んでみた。そのあとがきも読み応えがある。)