takramの田川欣也さんのインタビューが面白い。

ハイブリッドな感性が導く、新世代の力強いものづくり。
デザインエンジニアリングファームtakram
http://white-screen.jp/2009/04/takram.php

興味深いと感じたところを抜粋。

デザイナとエンジニアのコミュニケーションの溝:

一般のプロダクトデザインの現場だと、美大を出て就職し、 インハウスのデザイナーになるケースが多いのではないかと 思います。そのような組織ではデザインをデザイナーが、 設計をエンジニアが行う分業制になります。そうすると 業界用語やバックグラウンドの違いが溝になって、もの創りが 思うように進まなくなるケースが多々あるんです。

デザインとエンジニアリングという軸に直交して、ハード ウェアとソフトウェアという軸をかけ合わせると合計4つの マスができますが、僕らは一人一人がその4つのマスを埋める スキルを持つ人間になりたいと思ってるんです。

デザイナとエンジニアのコミュニケーションの溝を問題視している件については, Physical Computingと動機が似ている気がする。Physical Computingでは ArduinoやGainerといった扱いやすいハードウェア設計キットを用意し、それを共 通言語として使うことでコミュニケーションギャップを軽減しようとしている。 takramでは一人の人が複数のスキルを身につけることで、溝を克服しようとして いるらしい。 アプローチは違うけれども、問題意識の根は同じように思う。

プロトタイピングについて:

その4マスのスキルを現実社会で活かす具体的な活動が、 とにかく試作を繰り返す”プロトタイピング”です。

プロトタイピングは、ハイテク製品についても、この “時の洗礼”を擬似的に起こしてしまうためのアプローチだと 考えています。

――大きな労力がかかりそうですが…
実際の製品を数万単位の数で量産することに比べたら微々たる ものだと思います。

プロトタイピングは、小さい規模でたくさん失敗しておく、 予防注射のようなものですね。

まさに”Fail early, fail often”ということ。早い時期にこまめに小さな失敗を しておけば、後々の大きな失敗を防げる。 ハードウェアでもソフトウェアでも、工程が進むほど変更のコストがかさむので、 問題点は早めに見つかったほうがよい。

(余談だけれど、これは人間向けのソフトウェア設計(編集制作)でも同じこ と。)

受託と自社製品のバランス:

クライアントワークの場合には問題設定や目的意識が クライアントの側にありますが、アート制作の場合はこれらが 自分の側にあるので、何を考えるべきか、考える内容にしても 自分たちが気になっていることに正面から取り組めるんです。

おそらくそうだろうなと思う。業務が主に受託であっても、自社製品を持つこと には意味があるだろうと思う。

(余談:出版社専属の編集者にとってもこれは他人事ではなくて、勤務先で割り 当てられる仕事以外に、自分自身の作品(本や記事やBlog)を持つということは 有意義だと思う。)

変化を抱擁せよ:

もの創りで重要視するものって時代とともに移り変わると思う ので、何とも言えないんですけどね。いまAppleやAmazonが やってるもの創りで、一番大事なものは”サービス”ではない でしょうか。でも、10年前にはそんな概念がなかった。 そして、10年後もどうなってるかわからない。必要要素は 増えていくし変動していくので、その動きを自然に受け入れ られるような受け皿としてスキルセットを広く考えていくのが 重要だと思っています。

Guy Steeleもよく言っているように、人間と社会が時とともに変化していく以上、 製品も人間のニーズに合わせて変わっていかざるを得ない。であれば変化は抑え 込むものではなく受け入れるべきもの。そう考えるとスキルセットを広く持つと いうのも自然に思える。簡単ではないけど。

この人たちが実践しているやり方には強く共感する。 普通の人が真似できるかという点を考えると、agile等の方法論とはちょっと毛色 が違うように思えるけれど、でも問題意識の根っこは近いところにありそう。

こういう考え方やそれを提唱・実践する人たちが、今この時代に同時に現れてい るということは、偶然ではないように思う。