TOC 2010の資料の感想を発掘したので貼ってみる。

前置き

事前に興味を引いたセッション:

それぞれの概要

Subversionによるデジタルアセット管理

Subversionを使ってDAM(デジタル資産の管理)しましょうという話。出版社に DAMを導入しようとした時の注意点が挙がっている。

まとめはこう:

  1. Subversionが自分たちの役に立ちそうか判断する
  2. 編集者を説得する
  3. パイロット版企画を3つ選ぶ
  4. オーナーを見つける
  5. 必要に応じて解説書を読む

Beanstalkのようなサービスを試すのも手だと書かれている。たしかにリポジト リを用意する手間が導入を阻む一要因なので、いいアドバイスだと思う。

(あと会社が推進しているというところが重要。)

日本でDAMを導入するときは、道具だけじゃなくて、コンテントの権利に関する 約束を書面で交わすという文化も一緒に導入する必要がありそう。USだと契約文 化が定着してるせいか、出版契約は当然ながら執筆前に交わすし、第三者による 図版等のコンテントは転載許諾の書面が原稿一式と一緒に保存されてたりする。 このへんも大事。

ebookの出版契約

出版社と流通との間で交わす契約の話。実務に携わっている人向け。 例えばこんな細かくて具体的な話が:

  • 標準価格のn%なのか、売価のn%なのか
  • 条件が対象とするメディアを明示すること
  • 価格がメディア間で矛盾しないように
  • 著者との契約と矛盾しないように
  • refresh/update(マイナーアップデート)の提供を義務にするのか しないのか、対価を取るのか取らないのか

OPDS:オープンな出版物流通システム

OPDSの紹介。ebookを利用するにあたって、デバイスもフォーマットも入手先も いろいろあるので、探して手に入れるだけでも大変。OPDSは、読み手が目当ての ものを楽に探して手に入れられるようにするための、オープンな標準に準拠した 仕組み。技術的にはAtomベースでいくらしい。

BookServerはアーキテクチャを指しており、OPDSはそれを実現する基盤となる、 具体的な技術仕様ということらしい。

ebookリーダーの現状

いわく、デバイスやフォーマットが増えて、目当ての本がどのデバイスでどう読めるのか 皆目分からない混乱状態に陥りつつある。フォーマットが同じでも、プラット フォーム独自のDRMが使われてて、買った本が手持ちの他のデバイスで読めな いってこともあり得る。この混乱状態では、お客は他のもっと手間のかからない 娯楽に逃げてしまうよ。せっかくネットワークがあるので、読者が欲しいものを 簡単に探して手に入れられるようにしなきゃ。エコシステムとして考えなきゃ。 ブラウザベースのリーダーやBookServerが救いになるかもしれない……。という感 じの話。

本が迎える未来:BookServer

BookServerのBrewster Kahleさんの話。

Internet Archiveが推進しているBookServerのコンセプト。ebookを流通させる 共通基盤を作る。貸し借りと売買の両方。著者も読者も出版社も図書館も書店も 卸も、みんな得する仕組み。

アジャイルな出版モデル

ソフトウェア開発におけるAgileな手法を出版に応用した、Pragmatic Bookshelf によるAgile Publishing Modelの紹介。

資料がないので参加した人の報告を:

自動化されたワークフローのデモが印象的だったらしい。ここまでの自動化はUS の出版業界でも珍しいみたい。

効率化できているのは、分野を技術書、著者をXMLとsvnを扱える人に限っている からだという指摘はそのとおり。もちろん、みんなが同じようにする必要はなく て、自分たちに合ったワークフローとツールを考えて用意すればいい。

彼らに関しては自動化が目を引きがちだけど、個人的には、読者と直接関係を保 ちたいから独占的なプラットフォームを通さないのだという発言のほうが印象に 残る。

  • http://pragprog.com/magazines/2010-05/choice-bits

    Some publishers need Amazon & Apple because publishers have no relationship with their readers. But…

    …Amazon and Apple are why some publishers have no relationship with their readers. Chicken, meet egg.

私の傷跡を見よ:ebook 7つの失敗と教訓

講演者の実体験に基づく話とのこと。参考になるかどうかは立場次第かも。以下 偏った要約:

  1. 鶏が先か卵が先かに注意。
    コンテントが充実していなければデバイスは普及しない。SonyやAppleは宣 伝や値引きに先行投資して普及させようとしている。しかし読書市場はまだ うまく回るには至っていない(2も参照)。

  2. ebookのお客は安値。
    ebookのお客は紙版より安い値段を期待している。同時に、ebookに飛びつく 類の熱心な読者は紙版より早い時期に読みたがっている。ハードカバーより 早くペーパーバックの値段で手に入れたい。だから専用デバイスに高い初期 投資をするのをためらってしまう。スマートフォンなど他のデバイスに期待 か(3に注意)。

  3. モバイルユーザの利用パターンに従来の出版物は合わない。
    モバイルユーザのパターンは従来とは違う。外出先の細切れ時間で利用する。 従来の読書が食事だとすればおやつのつまみ食い。利用パターンに合った短 い内容かどうか考えよう。

  4. 定期刊行物は期待できる。
    雑誌は短い情報を早く安価に伝えるという性質がebook向き。ただし直接記 事へ飛べるため広告は無視されやすいという問題点がある。広告収入の減少 をどう埋め合わせるかが課題。

  5. どうやったら紙版より優れたエクスペリエンスを提供できるか。
    ebookが顧客にとって何がうれしいのか正しく認識しよう:
    • NG: 本をたくさん持ち運べる
    • OK: すぐダウンロードして手に入れられる
    • OK: 絶版タイトルが手に入る(これが大きい)
  6. 分岐点に注意。
    従来のままの契約条件では、著者自身が出版した方が利益が大きくなりうる。 出版社が関与したほうが利益が大きくなる分岐点がどこにあるか計算して、 著者に条件を提案しよう。

  7. 予期しない将来に注意。
    小売価格は市場の圧力で低くなる一方。価値を認めてもらう工夫を、あるい は従来とは別の収益モデルを考えよう。

雑感

個人的にはOPDS / BooksServerのように公益性が高いプロジェクトの発展に期待 かなあ。インディの力になるような仕組みは、結果的に健全な競争を通して分野 全体を活性化するだろうから。