2010-11-18にオーム社eStore(β)がオープンしました。

諸般の事情で予告も説明もなしに始めてしまったので、非公式な話を少し。

おことわり:あくまで個人的な意見・解釈であり、勤務先の見解を代表している わけではありません。また今後の予定についても何のお約束もできません。が、 担当者の一人がどういうことを考えているかに興味があればご覧ください。

これは何?

eStoreは、電子媒体版の書籍データを販売するサービスです。企画運営はオーム 社、開発は永和システムマネジメントです。

これで完成したわけではなく、ニーズを汲んで節操なく発展させていきたいと思っ ているので、ベータです。まだ不備もたくさんありますし。

eStoreは、たくさんの人の協力のおかげで実現しました。著作物の提供を快諾し てくださった著者や訳者・監訳者のみなさん。実際にストアを作ってくれた開発 者とテスターの方々。社内や取引先でも、お金の出入り・権利処理・データの用 意・サポート・デリケートな第8層の調整などで多くの人を巻き込んで協力しても らっています。とても全部の名前を挙げられませんが、おかげさまで何とかオー プンにこぎ着けられて、感謝しています。引き続きよろしくお願いします。

なぜ作ったの?

どうしてこういうことを始めたかというと、本の読み手として私自身がこういう サービスが欲しかったし、お客さんも喜んでくれるんじゃないかと思ったのが直 接の理由です。著者の方からも要望はありますし。書き手も読み手も望んでいる なら、その仲介が仕事である出版社がお手伝いするのは自然に思われます。

自分が企画編集した本がebookで手に入らないことに対する責任も感じていました。 私の周りでは数年前から、著者や編集者の間では原稿や本をXMLやPDFでやりとり するのが普通になっていて、電子媒体の便利さは分かっていました。であれば肝 心のお客さんにも電子媒体で提供したいところです。オープンソースソフトウェ アと違って、独占的な権利設定がされた作品は、自由にデータ化して再配布する わけにいきません。権利を任された組織の担当者が動かなければ、せっかく発行 した本が紙でしか手に入らないままになるのではないかという危惧がありました。

サードパーティのプラットフォームを利用するのではなく自社でストアを用意し た理由は、お客さんに十分なサービスを提供したいからです。具体例を挙げると、 ソーシャルDRMで利便性を維持するとか、ユーザ登録してもらって増刷・改訂時に アップグレードを提供するとか、紙版を買ってくれた人がライセンス登録できる ようにするとか、ベータ版書籍を販売するとかは、すぐには無理でもそのうち実 現したいところなんですが、そういうことをしたければ自前でやるしかなさそう ですから。

(余談ですが、こういうお客さんに対する物理的な本以外での価値提供という面 で、出版社にはまだやれることがあると考えています。広い意味での読書体験を いかにサポートするかという話。)

もちろんビジネスとしても成立すると考えています。後述のとおり、うまくいっ ている先達がいますので。

どういうふうにして作ったの?

お客様から直接見えるストアのアプリケーションは、永和システムマネジメント の角谷さんが中心となって設計・実装してくれました。

そもそも私が「ebookを提供したいなあ」と言っていたところに、角谷さんが「そ れ、うちでお手伝いできるかもしれませんよ」と声をかけてくれたことが実現へ の第一歩でした。角谷さんはアジャイルソフトウェア開発の実践者としてだけで なく、技術書の読み手としても送り手としても経験豊富で、読み手のニーズも出 版社の事情もよくよく分かっているので、「打てば響く」状態で進みました。始 まる前から目標を共有できていたので、ぶれがない。角谷さんがいなかったらそ もそもプロジェクトが始まらなかったし、始まったとしても今の形ではリリース できていなかったと思います。もう角谷さんにはどう感謝していいか分からない。 eStoreでいいところがあればそれは角谷さんのおかげで、残念なところがあれば それは私をはじめ社内の事情でそうなっていると思ってください。

技術的な話を少しすると、アプリケーション自体はRuby on Railsベースで、開発 はGitHubとPivotal Trackerを使って進めています。身軽に進めるために、実現し たいことは直接トラッカーに書き込んで、必要ならば顧客側担当者がリポジトリ 内のリソースファイルを編集したりもしています。環境は顧客チェック用のステー ジングと本稼働用のプロダクションを用意して、デプロイはトラッカーと連動し て随時。このへんのことはいずれお伝えする機会があるんじゃないかと思います。

こんな機能を実現する予定はある?

eStoreにはモデルとなる偉大な先達がいて、それは日本国内でも一部で有名な Pragmatic Bookshelfという出版社とそのストアです。

ご存じない方は、一度見に行って、どんな機能が用意されているかを見てみてく ださい。そしてお金が許せば何か1冊買ってみてください。特にbeta bookを買う と、本が徐々に出来上がっていく様子を見られるのでおすすめです。彼らのサー ビスを経験すれば、私たちがどういうものを目指しているか分かると思います。

私は彼らのお客本位な仕事ぶりは素晴らしいと思っていて、彼らが提供している サービスや機能のうち、良い部分はできる限り見習いたいと思っています。こん な機能をeStoreで用意する予定はあるか?という疑問がある方は、まず Pragmatic Bookshelfを見て、そこにあれば、予定ありと思ってください。もちろ ん約束も保証もできませんし、実現時期も分かりませんが、間違いなく追加した い機能の一覧には挙がっています。

今後の予定とお願い

このプロジェクトはボトムアップなので、大きな予算が付いているわけではなく、 小さく産んで大きく育てるという方針で進めています。見た目や機能が簡素なの はしばらくご容赦ください。やりたいことはいっぱいありますが、まずはできる ことから一歩ずつ。

eStoreを育てるために必要なのは、お客さんの支持です。具体的には、もしいい と思ったら、例えばこういう形で支持を表明していただけるとうれしいです。

  • 気に入った本があれば買ってみる
  • 欲しい本がなかったけれど、今後に期待できると思ったら、
    • ユーザ登録しておく
    • 「こういうサービスが始まってるみたいだよ」と、興味を持ちそうな 人に教えてあげたり、blog等で言及したりする
  • 改善できるところがあれば指摘する

商品が売れれば需要があると分かりますし、開発の原資になります。訪問者や登 録ユーザが増えたり、Web上での言及やリンクが増えたりすれば、潜在需要がある と分かります。もちろん私は十分な需要があると信じて疑わないんですが、人を 説得するには根拠が必要なので。

私たちも、できる限り多くの商品を早期に追加し、不具合を直し、便利な機能を 追加するべく、準備を進めています。

今の目標は、一刻も早く黒字化することです。いわゆるramen profitableな状態 への移行。そうすればより多くの資源(=:=開発者の集中力と時間)を割くことが でき、機能も拡充しやすくなり、より良いサービスを安定して提供できるように なります。

そんなわけで、どうぞよろしくお願いします。